
万引き家族を観た。
カンヌ国際映画祭パルムドール(最高賞)受賞で、
是枝裕和監督で、と話題の映画だが、とにかくまあどんな家族なのか知りたいと思って観にいった。
第一の感想、①これはもう圧倒的な安藤サクラの存在感ですね。
この人何者と思った。
知らなかったのでググると、やはり役者の申し子のような人であった。
演技を感じさせない、その世界に生きている人間の深さ、奥行きがあった。
映画を観ながら感じたことはいくつかあって、
②ひとつはオフコメの多さである。
テレビ(映像)の世界では、映っていない(オフ)人がしゃべること(コメント)をオフコメという。
普通、テレビでは”わかりやすさ”を重視するため、
Aがしゃべったら、Aを映し、
BがしゃべったらBを映すのが基本である。
(しゃべっている人は写っているべきなのだ。)
なので、最初の「しゃべり出し」に当人は映っていなくても、(絵は)追いかけるようにその人を映すのが、映像制作の定型である。
だから最初わたしも、後で映るのかなと思って(生理的に)待っていたのだけど、
声だけで、映らないまま展開するシーンがいくつか重なってきたので、
ああなるほどそういうことか、そういうふうに行くのだなと(だいぶたってから)理解した。
現実の世界では、特に”家庭”という個々の場では、
母がしゃべったからといって母の方をしっかり向いたり、
姉がしゃべったからといって姉の方に目を向けたりはしない、
むしろ、顔を合わせずに声だけ聞いている(聞こえてくる)場合が多いのではないか。
しかも複数が同時にしゃべる。
誰かがぜんぶ言い終わるまで待ったりしない。
映ろうが映るまいがしゃべる、のが家庭での会話だろう。
人生においてはみんな、自分が、主人公。
映ろうが映るまいが。カメラワークを待って誰も生きていない。
万引き家族は
祖母(樹木希林)と夫婦(リリーフランキーと安藤サクラ)と、
姉と男の子とさらに少女という6人家族の構成で
(血縁がどうなのかは後にわかる)
父役(リリーフランキー)と息子役が主に万引きをして”家計を助けて”いる。
その男の子は押し入れを自分の居場所にしているのだが、
押し入れにこもっているとき、家族の姿は見えないけれど母や父や祖母の声はしっかり聞こえているのである。
もしかしたらこの手法こそ、本作のテーマを表しているのかもしれないなと思えてきた。
見えないけれど、聞こえてくるもの。
家族がかりで万引きをするという、法律上、倫理上はその存在を認められない
アウトサイダーの家族。
いわゆる、社会からこぼれ落ちた下層の人々。
健全な社会には認められないけれど、その声は確実に存在する。
なんでも見える化や可視化の時代に、見えない声を伝える。
あと、③見た感想としてとにかく食事シーンが多い。
そうめん、即席ラーメン、コロッケ、食べているものは貧しくささやかな食べものだが、
食卓(ちゃぶ台)シーンというのがなんともいえず
家族を描くシーンになっている。
そうめんのシーンは夏の昼下がりの夫婦の官能劇場。
④救いは、家族の仲がいいということである。
見ていて、あれ?っと不思議なほど仲が良い。
夫婦も、家族も、喧嘩のシーンがひとつもない。
ふつう、貧乏で、仕方ないとはいえ、犯罪に手を染めるような人達は(偏見)、
もうちょっとののしりあったりしそうなものなのに(ありがちなドラマによるわたしの偏見)
少しも相手を責めたりしない。
むしろ、切ないほど、やさしく、相手をかわいがり、同時に愛を求めている。
深夜に広場でお父ちゃんと息子が遊ぶ俯瞰のシーンは、ちょっと驚きつつ、泣けた。
この男の子が頭が良くて泣けるのと、
お父ちゃんがあれっと思うほど素直で性格がよい。
お父ちゃん、やさし過ぎるなあ。
あるいは、親子というのは、”後天的に”努力してなるのかもしれない。
(「そして父になる」のテーマとも重なる。)
⑤それと、セリフ。
人間が描けている。
やはり安藤サクラで、ちょっと精神科医か、カウンセラーか?と思うようなドキッとするセリフがある。
「生まなきゃよかったと言われながら育った子なら、あんなにやさしい子にならないと思うんだよね」
とにかく、映画を観て感じたことを忘れないうちに書きました。(観たのは先週)。
すっごくいいから見たほうがいいよと人には特に言わないけれど、
家族とは、人間とは、日本人とは、を考えるあたって、深みのある示唆を貰った、
自分にとって観てよかったと思いました。
あと、いちばん感じたのは、
万引き家族に出てくる全員が愛おしくてキュートで、もうたまらなく愛おしくて、
抱きしめたくなりました。
いろんなことが起こっても、後の人生では幸せになってもらいたい、彼らの幸せを願いました。

映画を観終わって、新宿の街をのぞむ。
ああいう人達が救われ、幸せになれる社会とは。
いろいろ難しいけれど、とっても性善説の映画。
罪を悪んで人を悪まず、が是枝監督の根底にあるではないか。
本来、人って性格がよくて、悪気なんてないんだよというメッセージととらえることもできると思った。
ベジアナ・万引き家族のみんな幸せになれ! あゆみ